迷子 どこの子?  〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


       




 麻薬の取引をしていた組織の一員だった彼らは、取り調べに入っても当初は何も言わなかったものの。微罪だから何なら釈放してやろうかという方向で勘兵衛が揺すぶると、一転、何でも言うと焦って見せた。あのチップは、大きな取引きの際、相手へ先んじて渡しておく割り符のようなものだそうで。薬を詰めた荷は、例えば川の中洲や海の沖合で流すこともあり、それを見つけるためのヒントがそのチップなのだとか。

 『荷には同じ情報を取り込んだ、言うなれば“双子”のチップがついている。』

 なので、まずはと何かにくっつける格好で渡したそのチップへ、専用の機器で発信して反射が返って来た周波数を、そのまま荷物の探査に使えという段取りにて、直接の接触はしないまま、荷(ブツ)をやりとりしていた一味であるらしく。

 『何かややこしいことしてません?』

 そんな手間暇かけるなんて回りくどいと感じたらしく、手入れの行き届いた眉を寄せてしまった、赤毛のひなげしさんだったのへは、

 『海外に伝手があってか、
  何キロって単位の大荷物を扱っていたからな。
  こそこそとした手渡しならともかく、そこまで大きな取引では、
  特異な手管でも確実なら使おうって思うものなのだろうよ。』

 何せ、実際に手から手へ渡すものは、手土産の菓子折りとか、仕立てのいい和服や反物、子供によろしくという玩具だったりもし。試しにと職務質問を仕掛けて没収して調べた例もあったらしいが、どの場合も…手荷物の中に現物があるでないのは勿論のこと、ロッカーやホテルの鍵も、貸し金庫や何かへのカードや暗号も、何にも出ずじまいだったそうで。

 『封筒に入った手紙なんかが添えられてりゃあともかく、
  落ち合う寸前に買った菓子折りしか渡してないとかって場合もざらで。
  なのに、確かにブツは渡っていて、あちこちで売りさばかれてるんだ。』

 あんな小さいチップなら、シリカゲルの袋や包装紙のテープの裏にでも誤魔化せようからなと、意外な真相への苦笑を浮かべた勘兵衛で。小売担当を捕まえても、そこはマークされてるぞと教えつつ、代わりが次々送り出されるだけの話。大元をどんと挙げたかったところへの、この展開だったのだそうで。彼女らに掴みかかろうとした実行班の二人にすれば、

 『前日の台風並みの大風で、潜んでいたアジトの壁が割れたそうでな。
  そこから逃げ出したのがあの仔猫。
  相手のボスの情婦が欲しがってたそうで、
  意外なものほど目眩まし効果もあるからと用意されたんだと。』

 肝心の荷は、もう投擲場所まで運ばれていて変更も利かない。こんなドジを踏んだとバレたら、途轍もない大金の動く取引が おじゃんになるだけじゃあ収まらない。そんな方法で荷を受け取らせていたという、一番肝心なシステムまでもがこの綻びから明らかになったなら。兄貴の上の、そのまた上の大幹部から、問答無用で殺されかねぬ。

 『そうまで思い詰めての恐慌状態にあったらしくての。』

 何なら不法侵入とか傷害罪で逮捕された方がましだとでも思ったものか、荒っぽい手で探しまくったらしいと、結果としては全面的に自白したそうで。

 「それにしても…仔猫を探さなんだのはどうしてでしょか。」

 教務室を荒らした点へは、実を言うとまだちょっと引っ掛かってた七郎次であり。首輪にあんな秘密があったこと、そうそう気づけるもんじゃなかろうに、そのままになってると思うのが自然じゃありませぬかと。気づいた側の七郎次が言い出したのが可笑しかったか、目許をたわめてのいかにも男臭い表情となり、渋く苦笑を零した蓬髪の警部補殿、

 「ポスターの写真に首輪がなくて、
  なのにわざわざ“首輪もしていた”と記してあったのを。
  これに秘密があると知ってるぞという含みがあると思ったらしい。」

 そんな風に丁寧な説明を付け足してから、ほんの半歩ほど後からついて来る格好になっていた、愛らしい年下の恋人を振り返れば、

 「あ…。//////」

 すっかりと大人の男性で。知的で精悍で頼もしく、そのうえ稚気も備えておいでの勘兵衛様から、それはざっかけない笑みを向けられたとあって。不意打ちだったこともあっての、胸のどこか柔らかいところを撃ち抜かれたかのように、ぱあっと頬を染めてしまうところが何とも可憐。時には逢えない日が続いての寂しいですと、駄々を半分込めたよな、甘えるようなメールも寄越す子が。実際に逢うと何故だろか、目映い存在なのは断然彼女の側であろうに、そんなご当人が…こちらを見ほれて下さってのこと、目許潤ませ、頬染めるものだから。

 “勘が狂うというものだの。”

 何の、あんな美少女にぞっこん惚れられておいでだなんて、男冥利に尽きるでしょうにと。征樹が冷やかすのも、理屈としては判らぬではないけれど。思えば昨年の同じころ、どうにかして進展を見たいとの切望からだろ、クリスマスを親元離れての二人でムーディに過ごしたいと企んで。同じ望み持つ親友二人と結託し“温泉へ行くのだ、心配ならば追って来て大作戦”なんてものを計画した おませさん。髪を梳くだけ、手をつなぐだけ、そんな扱いに業を煮やしたか、どうして?と詰め寄って来たもの、そおと抱き寄せあやすように口づけたあの日を境に。もしかすると……彼女の側こそ、少しほど純情の度合いが上がっているような気がしてならず。

 「…シチ?」

 家まで送ろうと、外部の駐車場へ停めてあった自前の車まで向かう道すがらのこと。何ならどこかで早めの食事でもとろうかとの算段をしつつ、おいでという響き含ませて呼べば、

 「……はい。/////////」

 含羞みつつも傍まで来るが。そのまま視線を上げてのじいと見つめて来る様子は、触れて欲しいとせがんだ者にしては、むしろ逆行の傾向
(きらい)があるような。学園指定のそれは濃色のコートらしいが、今 羽織っているカシミアのハーフコートは柔らかなベージュという暖色で。冬の早めの黄昏が、そろそろ始まりそうな頃合いの街並み。一足早めに点灯された、街路樹へのイルミネーションの瞬きが燦めく中では、そのまま光の中へと取り込まれてしまいそうにも見えたので。

 「人出も増える、もそっとこちらへ。」

 言いながら手を延べての誘
(いざな)えば。どれほど意外な言われようだったものなやら、宝珠のような双眸を見張り、え?と何度も瞬いたのが却ってこちらを怯ませたほど。とはいえ、確かに通りを行き交う人の数は増えて来つつあったので、言われたそのまま、スーツ姿の勘兵衛の、すぐの傍らへと身を寄せれば、

 “あ……。///////”

 これといって化粧品だのコロンだの使っておいでじゃないはずなのに、ふわりと伝わる精悍な香りがし。しかも背後へと回された腕が、離れてはならぬと引き寄せてくれるのが、もっとずっと大人同士の歩みようのようだったので。そのまま雲の上でも歩いているかのような心地になってしまった七郎次は、だが、

 「…勘兵衛様。」

 どこか沈んだ声を出す。んん?と傍らを覗き込んだ壮年殿へ、するんとすべらかな頬をほのかに朱色に染めたお嬢さんが告げたのは、

 「ダメな子ですよね、アタシ。」

 そんな思わぬ一言で。唐突に何を言い出すかなと思ったそのまま、その足が止まったのを案じてやり。人の波から外れるように、少しほど街路樹側へと引き寄せるようにして身を寄せれば。小さな白い手がこちらのコートの胸元を、頼りない力で掴み締め、

 「無鉄砲ばかりやらかして、
  勘兵衛様には心配ばかりおかけして。」

 昔のような…言葉要らずで頼られるほどだった、古女房としての分別も全然思い出せなくて。いくら年の差があったって、まだ十代だと言ったって、例えば久蔵殿なぞは、早くもあのころと同じほど、落ち着きのある人性になっておいでだ。ヘイさんだって気遣い上手ですっかりと大人だし。

 「だっていうのにアタシだけ、激発しやすいお調子者で。
  それが何とも歯痒いなぁって…。」

 それより何より…こんなに大人の勘兵衛様に、私のような小娘では到底釣り合わないんじゃないかしらと、それを思い知らされるのが辛くて痛い。どんなに好きかは二の次で、どんなお役に立てるかが、どれほど充実した存在かが、大人の交際には必要なんではなかろかと。それを思うと身がすくむのですと、幼い肩をすぼめておれば。

 「……何を言い出すかと思ったら。」

 頬にかかって口許へ。降ろしていた髪の先が触れかけていたの、大きな手のひら這わせるようにして、そおと払ってくれた壮年殿は、その手をそのまま離さずにいてくれて。

 「それこそ忘れたのか?
  あの頃のお主とて、最初からすべてに通じていた訳ではなかっただろうが。」

 「……。」

 自分の居場所さえなかなか判らずにいて。文字通りの身の置き場に困ってだろう、執務室での立ちん坊となることも、少なくはなかったほど初心の頃もちゃんとあったのにね。何事へも全力で当たっていて、それが故の遠回りや不器用もさんざしでかして。そんな中から少しずつ。注意深く見ていての、気づいたことや判ったことをこつこつと積み上げて、その結果として、誰からも“島田司令の古女房”と認められるだけの存在になったのではなかったか。

 「う。//////」

 だというのにまあまあ、何とも愛らしいことを言い出すものよと。それこそ大人の余裕からだろう、微笑ましいと言わんばかり、そのお顔をほころばせてしまわれる罪な人。いいようにからかわれたような気がしてしまい、

 「…知りません。///////」

 もうもうと拗ねつつも、引き寄せられた懐ろから逃げ出すということもしないまま。再び歩きだした勘兵衛の、余裕のエスコートに身を任せ。宵の気配が少しずつ満ちてゆく、聖夜間近い街なかを、文句のつけどころなぞなかろう恋人同士として、そぞろ歩く二人であり。来週のクリスマスには、同じようにして歩けるのかな、どうかどうか厄介な事件など起きませんようにと、あくまでも私的な願望から、世界平和を願ってしまう、白百合さんだったそうですよ。







   〜Fine〜  10.12.10.〜12.16.

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  *そうそう、メインクーンのくうちゃんは、
   その出どころも普通にペットショップで取り寄せたという、
   特に問題もない仔猫だったので。
   まさかに生き物を証拠物件扱いも出来ぬということで、
   特別に三木さんのお宅での“預かり”という処分となったそうです。

   相も変わらず、すっとんぱったんしてしまう女子高生たちで。
   本文中にも書きましたが、
   あの倭の鬼神様のお話でも、
   最近では乱闘シーンって滅多にないってのに。
   何ともエネルギッシュなことです、はい。


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